京丹後のお米と共に 白杉酒造の挑戦

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山陰近畿自動車道の京丹後大宮ICからほど近い京丹後市大宮町周枳という地域に位置する白杉酒造株式会社は、1777年創業の長い歴史のある酒蔵だ。白杉酒造といえば、ご飯として食べる食用米だけを使って酒造りをする日本唯一の酒蔵として有名である(一般的な酒造りは「酒米」と呼ばれる酒造適合米を使用する)。京都市内で4人兄弟の次男として生まれ育ち、叔父である先代の社長から白杉酒造を継いだ11代目蔵元の白杉悟さんが、食用米での酒造りを始めた。「人がやらないことに取り組んでみたい」と語る白杉さんに、これまでの挑戦と今後の展望についてお話を伺った。

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白杉酒造の玄関。平日でも色々な所からお客さんがお酒を買いにやってくる。

子どもの頃から好きだった丹後の風土が後継ぎの決め手に

「子どもの頃、毎年夏休みになると父の地元である丹後に来て遊んでいました。海に行ったり、近所の山で虫を採ったり」と白杉さん。白杉さんのお父さんの実家がこの白杉酒造だったことから、長期休みに丹後へ来ることが楽しみだったという。子どもだった当時は「酒蔵」という認識も無く、冬には丹後に来たことが無かったため酒造りも見たことが無かったそう。大学3年生になり就職について考え始めた頃、家族の中で酒蔵の後継ぎの話になったとき、幼い頃から好きだった丹後の地でいつか暮らしたいと思っていた白杉さんは「チャンス」と思い自ら手を挙げた。
 それまで酒造りのことを学んだことが無かった白杉さんは、東京と広島で酒造りの基礎を学び、その後丹後へ移った。当初は、杜氏から教わる方法を同じように行い、同じ味の酒を再現することに集中した。その中に散りばめられた数々の白杉酒造のこだわりは、白杉さんの酒造りの基盤となっている。一方で、その当時の日本酒業界全体は生産量が減り、白杉酒造においても経営面では厳しい状態だったという。「この先どうにかしていかないと」と思いながら、地道に酒造りを覚えた。

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「櫂入れ」は、タンクの中の麹・蒸米・水を櫂棒で混ぜる工程。

何も武器が無いからこそ、自分にしか出来ない酒造りの追求

白杉さんが酒造りを始めた頃、ふと「食べて美味しいこの丹後産の米を酒造りになぜ使わないのだろう」と思ったことがあった。それを「素人ながらの考えだった」と白杉さんは微笑み話すが、それが白杉酒造の新しい歴史の始まりのきっかけとなる。
 仕事をしながら白杉さんがいつも考えていたことは、「自分がこの丹後の地で酒造りをする意味」だった。周りの酒蔵が新しい酒造りにチャレンジしているのを横目に、自分にこれといった武器が無いことを悔しく思っていたという。「このまま酒造りを続けても、現状は変わらない。自分が納得するものを造らなくてはこの先残れない」そんな想いが募った。そして、疑問に思い試してみたいと思っていた「食用米」での酒造りを始めることを決意した。
 それから毎年、丹後産のコシヒカリで1タンクの酒を仕込んだ。「上手く行ったと思えたのは6年目。それまでは手法も試行錯誤したし、味も美味しくなくて」と白杉さんは思い返す。食用米は酒米に比べ粘り気が強いことから、特に麹造りの工程で苦労した(米に麹菌の種を振り混ぜるとき、米と米がくっついて均等に菌を付けることが難しく、そうなると良い麹が出来ず、十分に米が溶けず甘くならない)。麹菌の種類、米への水の吸わせ具合、タンクの温度管理等を研究し、6年目にしてやっと美味しいと思える酒が出来上がった。
 「食用米での酒造り」という新たな武器を得て、6年目以降は全て全量食用米での酒造りに切り替えた。食用米で造るという「珍しさ」だけではなく、その味への確かな信頼で徐々に人気を得るようになり、売り上げもピークだった昭和50年代の頃までV字回復したという。

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精米されたお米。毎年丹後の農家さんから仕入れる。

「飽き性」「人と違う事がしたい」だから毎年新しいことに挑戦する

白杉酒造のお酒といえば味はもちろん美味しいのだが、お酒のネーミングやそのラベルも一際目立つ。「毎年何か新しいものを出してくる」という印象があり、その理由について尋ねると「僕が飽き性だからですね。趣味にしても色々やってみたくなる性格で」と笑って話す白杉さん。酒造りが始まると毎日の作業は基本的に同じ流れの繰り返しになるため、モチベーションを保つためにも毎年新しい試みをするのだそう。
 仕込みをしない夏場に来季は何をしてみようかと考え、イメージが決まるとそれに近い他社のお酒を買い集めて試飲する。一人ではなく社員さんと一緒に取り組み、イメージにより近づけるための勉強をする。その繰り返しが毎年の造りに活きているという。白杉酒造のお酒はまさに、何事にも前のめりな白杉さんの人柄があってこそのものだ。
 また、丹後地域(京丹後市を含めて2市2町)には10蔵の酒蔵があり、近年になって互いの酒を評価したり意見交換する等の動きが生まれてきている。「それぞれの良い所を参考にして、切磋琢磨できるような関係を作りたい」と語る白杉さんの表情からまだまだやりたいことがあるように伺えた。

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「shirakiku BLACK LABEL 純米無濾過生原酒 vibrant」はマスカットのような香りと味わいが特徴で、ゴーヤ等の青い苦味との相性が良い。

「飲まずには帰れない」そんなお酒がある街に

京都縦貫道や山陰近畿自動車道の開通で移動時間が短縮され、近畿圏や中京圏からも多くの人が丹後へ観光やレジャーに訪れるようになった。白杉酒造でのお酒の購入を目当てに来るお客さんも増えているというが、「丹後の美しい景色を前に、美味しい料理を食べながら、この地で造られる日本酒を味わってみてほしい。それは格別で贅沢な時間の使い方」と白杉さんは語る。”地酒”の良さというのはそうして味わうことでより感じられるものなのだろう。
 未知の経験を自ら進んで選び、その学びを活かしてお客様の期待に応え続ける白杉酒造。今年はどんな新しいお酒を仕込むのだろう。雪の降る丹後の冬を超え、新酒の出る春の訪れが待ち遠しい。

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白杉酒造の皆さん。4名で酒造りを頑張っています!

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