受け継がれてきた技術、道具、水が造りだす吉岡酒造場のお酒

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京丹後市弥栄町に2つある酒蔵のうちの1つ、吉岡酒造場。寛政元年(1789年)創業のこの蔵の中には、一際大きな木箱がある。その一角だけを見ると、遠い昔にタイムスリップしたような気持ちになるほどの存在感。尋ねてみると、それは「木槽(きぶね)」という酒を搾るための道具で、吉岡酒造場では全ての絞りを木槽で行なっている。現在主流となっている自動圧搾ろ過機(蛇腹状の機械で圧力をかけ搾る)を使用した搾りとは異なり、酒袋そのものの重さで酒を搾る手法で、自動圧搾ろ過機の倍以上の時間をかけて酒を搾る。この古い木槽が見守り続けてきた吉岡酒造場の吉岡直昭さんに、お話を伺った。

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吉岡酒造場の入り口。

「自然な流れ」で後継ぎをした

幼い頃から酒蔵へ覗きに来たり、中学・高校生になると瓶詰め等の作業を手伝っていたという吉岡さん。親に継げと言われていた訳ではないが、長男ということもありなんとなく自分がやるのかなと思っていた、と話す。「自然な流れ」で学校を卒業して実家へ戻り、蔵人として働いていた。吉岡さんが35歳だった平成14年のある時、先代の杜氏が病気をされたことをきっかけに、自身が杜氏として酒造りをすることとなった。全体の作り方は手伝っていた頃から見て覚えていたというが、きめ細やかな作業や加減は一緒に働いていた蔵人さんたちから教わった。「人員も減り不安もあったが、自分がやっていかなくてはいけないという想いで続けてきました」と、吉岡さん。

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「検査場」で、もろみの成分分析をする様子。

この地の水で造るお酒

吉岡酒造場のお酒の味の特徴は、ガツンとした強い味。甘口の煮物等、普段のお料理にも良く合う。お酒を美味しく造る上で欠かせないものは何かを尋ねると、「水ですね。うちが仕込みに使っている水は硬水で、酒を造ると辛口になるもの。だけど、水自体は甘い感じがするんです」と、吉岡さんは答えた。その水は、酒蔵の裏手にそびえる地域のシンボル『金剛童子山』という山の湧き水。吉岡酒造場の玄関から蔵への通り道にはその水が流れる水路があり、酒蔵の空気をひんやり涼しく冷やす。代々、この水を使って酒造りが行なわれてきた。
 日本酒は「甘口」「辛口」等という表現でその味の特徴を表現する。これは「日本酒度」という味の目安を測る基準によるもので、糖分が多いもの(甘口)がマイナス、少ないもの(辛口)がプラスで表される。実際に吉岡酒造場のお酒は、辛味の中にほんのり甘味が感じられるのが個性。
 昔、吉岡酒造場に働きに来ていた蔵人が「水が良いから誰が造っても美味い酒ができる」と言ったそう。吉岡酒造場で造られるお酒は、この場所で造るからこそできる味なのである。

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ふるさと納税に出品の吉野山 大吟醸。

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吉岡さんの奥さんお手製の焼きギスの煮つけ。海の幸の出汁とお酒がマッチする。

流行に合わせた酒造りではなく、古くから受け継いだ味を続けたい

現在では、飲みやすいお酒が好まれる傾向があるが、うちでは杜氏が受け継いできたずっしりとした”日本酒らしい日本酒”の味を目指していると話す吉岡さん。「新しいものが悪いとは思わないが、味を変えないことに重きを置いて造っている。今はいなくなってしまった『丹後杜氏』の造りと味を残したい」と語る(丹後杜氏は明治41年に結成された、丹後地域の地元の杜氏の組合。平成17年に消滅した)。地の酒には地の幸が一番合うからと、吉岡さんの奥さんが焼きギスの煮つけを用意してくれた。お料理とお酒が味を香りを引き立て合い、止まらなくなる組合せだ。
 長い間地域の暮らしに根付き、大切に使われてきた大きな木槽で今年も酒が搾られ、歴史を刻む。受け継がれてきた技術、道具、その地を流れる水が造るお酒の味を、ぜひ楽しんでみてほしい。

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「今年の仕込みでできるお酒を楽しみにしていて下さい」

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